ファミリア ~シングルマザーが幸せになる方法~

ファミリア ~シングルマザーが幸せになる方法~

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-30
Oleh:  日暮ミミ♪Baru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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働きながら3歳の娘、奏(かな)を育てる25歳のシングルマザー・宮瀬(みやせ)莉子(りこ)。 彼女は21歳の頃、妊娠が発覚する前に当時の恋人を交通事故で亡くし、その後は大学を中退して未婚のままで奏を産み育ててきた。 そんな莉子はパート先の飲食店で、中学時代に転校してしまった幼馴染で初恋の人だった瑛司と再会する。 彼は大学在学中に起業し、年商10億円の会社の社長になっていた。 莉子の現状を知った彼は、「俺の会社で一緒に働かないか?」と声をかけてくれて――。

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Bab 1

プロローグ

 ――二十一歳の夏、あたし・宮みや瀬せ莉子りこの大切な人は天国へ行ってしまった。交通事故に巻き込まれて、ほとんど即死だった。

 悲しむ間もなく、あたしは体に異変を感じた。――生理が来ない。それが何を意味しているのか、さすがに二十一歳にもなれば分かった。

 妊娠検査薬で陽性反応が出て、母に付き添ってもらって病院へ行くと妊娠三ヶ月だと女性の産婦人科医から告げられた。父親は彼しかいない。

 堕おろすなんて選択肢は最初からなかった。彼の大事な忘れ形かた見みだから、絶対に産もうと決めた。

 父には猛反対された。「大学を辞めてまで産むのか」と。でも、あたしの意思は固かった。

「あたし、大学辞めるよ。この子を産んで、働きながら育てる。お母さんは『協力する』って言ってくれてるよ」

 母は「何も大学を辞めなくても……。休学じゃだめなの?」と言ったけれど、そんな中途半端な気持ちじゃシングルマザーなんてできないと思った。

 父は「勝手にしろ」とあたしを突っぱねたけれど、多分本当は頼ってほしかったのだろう。

 一度母親になる覚悟が決まってしまうと、つわりのつらさも母の協力のおかげでどうにか乗り越えることができた。

 そして翌年の五月、あたしは可愛い女の子を出産し、「奏かな」と名付けた。――あたしはこれから、この子と二人で生きていくんだ。そう心に決めた。

 両親にも協力してもらいながら、あたしは奏を一生懸命育てながら就職活動を始めた。大学を卒業していないし、奏との時間を多く取りたいので正社員は諦め、パートの仕事を探し、奏が一歳半になる頃にファミレスのホール係の採用が決まった。あたしは奏を保育園に預けて働き始めた。

 両親を頼らずに親子二人だけで暮らせるようになりたくて、一日六時間・週四日のパートで働きながらお金を貯めることにした。時給千三百円のパートで月に五万円ずつ貯金して、二年で百二十万円貯まったけれど、奏の教育資金のことも考えるとまだまだ足りない。

 気がつけば未婚のままあたしは二十五歳に、奏も三歳半になった。

 奏には父親が必要かもしれないと思いつつも、未婚の母という事実が恋愛をするのに重荷になっているのか、なかなか新しい恋に踏み出せずにいる。その相手に奏が懐なついてくれるかどうかという問題もあった。

 そんなふうに、あたしはこのままずっと奏と二人で生きていかなければならないのか――。そう思っていた。彼――高倉たかくら瑛えい司じくんと再会するまでは……。

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プロローグ
 ――二十一歳の夏、あたし・宮瀬莉子の大切な人は天国へ行ってしまった。交通事故に巻き込まれて、ほとんど即死だった。 悲しむ間もなく、あたしは体に異変を感じた。――生理が来ない。それが何を意味しているのか、さすがに二十一歳にもなれば分かった。 妊娠検査薬で陽性反応が出て、母に付き添ってもらって病院へ行くと妊娠三ヶ月だと女性の産婦人科医から告げられた。父親は彼しかいない。 堕ろすなんて選択肢は最初からなかった。彼の大事な忘れ形見だから、絶対に産もうと決めた。 父には猛反対された。「大学を辞めてまで産むのか」と。でも、あたしの意思は固かった。「あたし、大学辞めるよ。この子を産んで、働きながら育てる。お母さんは『協力する』って言ってくれてるよ」 母は「何も大学を辞めなくても……。休学じゃだめなの?」と言ったけれど、そんな中途半端な気持ちじゃシングルマザーなんてできないと思った。 父は「勝手にしろ」とあたしを突っぱねたけれど、多分本当は頼ってほしかったのだろう。 一度母親になる覚悟が決まってしまうと、つわりのつらさも母の協力のおかげでどうにか乗り越えることができた。 そして翌年の五月、あたしは可愛い女の子を出産し、「奏」と名付けた。――あたしはこれから、この子と二人で生きていくんだ。そう心に決めた。 両親にも協力してもらいながら、あたしは奏を一生懸命育てながら就職活動を始めた。大学を卒業していないし、奏との時間を多く取りたいので正社員は諦め、パートの仕事を探し、奏が一歳半になる頃にファミレスのホール係の採用が決まった。あたしは奏を保育園に預けて働き始めた。 両親を頼らずに親子二人だけで暮らせるようになりたくて、一日六時間・週四日のパートで働きながらお金を貯めることにした。時給千三百円のパートで月に五万円ずつ貯金して、二年で百二十万円貯まったけれど、奏の教育資金のことも考えるとまだまだ足りない。 気がつけば未婚のままあたしは二十五歳に、奏も三歳半になった。 奏には父親が必要かもしれないと思いつつも、未婚の母という事実が恋愛をするのに重荷になっているのか、なかなか新しい恋に踏み出せずにいる。その相手に奏が懐いてくれるかどうかという問題もあった。 そんなふうに、あたしはこのままず
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-14
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初恋、再燃 ①
 ――今日もあたしは奏を保育園に預け、朝九時からファミレスのパートに出ていた。 そしてランチタイムを迎え、今日もお店は忙しい。あたしが働いている大手ファミレスチェーンの虎ノ門店は、お昼休みを迎えたサラリーマンやOLさんのグループでテーブル席はいっぱいだ。 オーダーされた料理を運び終えてひと息ついていると、また呼び出しチャイムがポーンと鳴らされた。「はい! ただいま伺います!」 他のスタッフたちも、オーダーを取りに行ったり料理を運んだりでみんな忙しそうだ。というわけで、あたしが入力端末を取り出して向かったのは、お一人で座っている若い男性のお客様のテーブル。 年齢はあたしと同じくらい。彼もビジネスマンふうではあるけれど、どちらかといえば労働者側というより経営者側という感じ。 そしてなぜだろう? あたしは彼の横顔に懐かしさを感じた。――あたし、この人のことを知っているかもしれない……。「――いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします」 いけない、今は仕事中なのだと気持ちを切り替え、端末を開いて声をかけると、彼がパッと顔を上げてあたしの顔――というか制服の胸に付けているネームプレートかもしれない――を見つめてハッとしたような顔をした。ネームプレートにはフルネームがローマ字で刻字されているのだ。「……莉子?」「えっ? あの、どうしてあたしの名前を……」 彼の顔をまじまじと見つめたあたしは、そこに懐かしい人の面影を見つけた。でもまさか……。もし本当にそうだとしたら、彼とは十年ぶりの再会ということになる。「……もしかして、瑛司くん? 中三の夏休みに転校していった」「その〝もしかして〟だよ、莉子。久しぶりだな。十年ぶりくらいだっけ?」 その笑顔、その柔らかな話し方。彼はやっぱりあたしの初恋の人、幼なじみの高倉瑛司くんだった。「うん……、そうだね」「莉子がここで働いてることは前から知ってた。――子供、いるんだって? 結婚してたんだ?」「子供はいるよ。三歳半の娘がね。大学時代の彼氏の子。でも、結婚はしてないよ。彼、あたしの妊娠を知る前に交通事故で死んじゃったから」「そっか。じゃあ〝未婚の母〟ってことか」「うん。……あの、ごめんね瑛司くん。あたし今、仕事中だから」 あたしは彼としばらく話し込んでいたけれど、他の
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-14
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初恋、再燃 ②
 ――数分後、瑛司くんがオーダーした料理が出来上がり、配膳台にトレーが置かれた。さあ運ぶぞと思ったら、他のスタッフがそのトレーを持って行ってしまった。「あー、瑛司くんのオーダー……。あたしが運びたかったなぁ」「宮瀬さん、四番テーブルの片付けお願いします」「……はい」 ちょうど今、四番テーブルで食事をしていた三人組のお客様が会計を済ませて出ていかれたところだったので、店長から指示が入った。これも仕事だから仕方がない。あたしはダスターをエプロンの腰紐に引っかけ、指示されたテーブルへ向かうのだった。   * * * * ――ランチタイムが終わると客足もまばらになり、どうにかシフトどおりの三時にあたしは仕事を終えた。「それじゃ時間になったので、お先に失礼します」 ホールとキッチンにいる他のスタッフたちに声をかけ、ロッカールームへ。制服からカジュアルな私服に着替え、退勤のタイムカードを押して通用口からお店を出ると、あたしは休憩時間にスマホに登録しておいた瑛司くんの携帯番号に電話した。「――あ、もしもし。あたし……莉子です。今、仕事終わってお店を出たところ」 わざわざ名前を言ったのは、あたしも携帯の番号とアドレスを変えたから。奏の父親を亡くしてから、心機一転するために自分の名義でスマホを新しく契約し直したのだ。『ああ、莉子。お疲れさま。分かった。それじゃ、言ってたカフェに今から来られる? 俺、もうそこで待ってるからさ』「うん。今から行くよ。じゃあ、また後でね」  あたしは通話を終えると、早く彼に会いたくて、スマホを握りしめたまま約束のカフェに向かって足早に歩き始めた。そこへ向かう数分すらもどかしくて、できることならそこまで瞬間移動したいくらいだった。「――いらっしゃいませー!」 お店のドアを開けると、白いシャツにオシャレなエプロンを着けた女性スタッフが出迎えてくれ、店内の奥まった窓際のテーブルから瑛司くんが手を振ってくれた。「おーい、莉子ー! こっちこっち!」 彼が笑顔で手招きしてくれたので、あたしはそのテーブルまで行くと彼の向かいに腰を下ろした。四人掛けのテーブルだったので、通勤用のトートバッグは空いている隣の椅子に置かせてもらう。 あたしが座るのを待って、さっき出迎えてくれた女性のスタッフさんがお冷やとおしぼりを持
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-14
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初恋、再燃 ③
「ちなみに、今の収入は月にいくらくらい?」 注文していたカフェオレが運ばれてくると、あたしはそれを飲みながら彼の質問を受けた。「時給千三百円で一日六時間、月に十八くらいシフトに入ってるから……えっと、十二万ちょっとかな。土日は時給が百円上がるから」「十二万か……。それで貯金もして、親子二人で実家出て暮らしていくのは厳しいんじゃないか?」「うん……。一応、児童扶養手当も入るけど。やっぱりそれでも厳しいよね……」 あたしの話を聞いていた瑛司くんは、次の瞬間思いがけない提案をしてくれた。「……俺なら、莉子たち親子を助けてあげられるよ」「えっ、どういうこと? ……ねえ、瑛司くん。瑛司くんは今、何の仕事をしてるの?」 あたしが訊ねると、彼は一枚の名刺をくれた。そこには〈株式会社タカクラプランニング 代表取締役社長〉という肩書きが、彼の名前と会社の連絡先やメールアドレスと一緒に書かれている。 瑛司くんが社長……。なんか信じられない。「実は俺、大学在学中に起業してさ。プランニングとかの会社なんだけど、今じゃ年商十億円」「年商、十億……。スゴいね」 何だか、彼がものすごく遠い存在になってしまったような気がする。でも、「彼ならあたしたち親子を助けられてる」ってどういうことだろう? 彼の仕事と何か関係あるのかな?「いや、そんなことないよ。――で、ここからが本題。莉子、俺の会社で、正社員として働いてみないか? 俺、莉子と一緒に働きたい」「……えっ? 正社員って、あたし大学中退だよ? いいの?」「大丈夫、問題ないよ。ウチの会社、学歴は重視してないから。月給三十万、年二回ボーナス支給の年収六百万でどうだろう? 家賃補助も出すよ。それなら今までよりずっと早くお金も貯まるし、それでも奏ちゃんと親子二人で十分暮らしていけるだろ?」「うん。お金の面では楽になると思う……けど、正社員になったら奏と過ごす時間が減っちゃわないかな?」 あたしがパート勤務を選んだのは、お金のことよりも奏と過ごす時間を大事にしたかったからだ。正社員として働くようになったら、奏に淋しい思いをさせてしまうことになるんじゃないだろうか……?「それも大丈夫。ウチの会社はフレックスタイム制を採ってるから、保育園のお迎えの時間とかは融通利くよ。実際に、莉子みたいにお子さんを保育園に預け
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-14
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幸せへの第一歩 ①
「――奏ー、お待たせ! お迎え、遅くなってごめんねー」 あたしはいつものお迎えの時間より少し遅れて保育園に着くと、先生たちと一緒にお行儀よく待っていた可愛い娘に駆け寄った。「あっ、ママ~!」「お仕事終わったよー。奏、今日もいい子にしてた?」「うん! カナたんね、きょうおえかきしたの。ママのおかおかいたんだよー」「そっかそっか。お家に帰ったらママに見せてね。――先生、今日もお世話になりました。すみません、お迎えが遅れてしまって」 舌足らずでたどたどしく、それでも楽しそうに話してくれたわが子の頭をいい子いい子と撫でながら、あたしは担任である若い――といっても多分あたしよりは年上の女性の保育士さんに頭を下げる。「いえいえ。奏ちゃん、今日も元気でいい子でしたよ。よかったねー、奏ちゃん。ママ、お迎えに来てくれたね。それじゃ、また明日」「は~い! せんせー、またあした。さようならぁ」「さようなら、先生。また明日もよろしくお願いします。――じゃあ帰ろ、奏。夕飯のお買い物しなきゃ」 あたしはもう一度先生に頭を下げてから、奏と手を繋いで歩き始めた。これから向かうのは、いつも買い物をしているスーパーだ。 食事は基本的にあたしが作っている。それは母から強制されたわけではなく、自主的に始めたこと。夕飯のメニューは奏の好きなもの中心になるけれど、両親もまだ若いので一緒に喜んで食べてくれている。「奏、今日は何食べたい?」「んーとねえ、オムライスがいい!」「オムライスかー。お昼は何食べたの?」 奏の通っている保育園には給食があって、夕飯のメニューは基本的にそれと被らないように考えているのだ。……まぁ、被ったら被ったで奏は「ママのゴハンおいしい!」と喜んで平らげてくれるのだけれど。「ハンバーグとねえ、チキンライス」「そっか。うん、分かった。じゃあ今日はオムライスにしようね。……待って、ばぁばにお電話するから」 あたしは繋いでいた娘の手を離し、トートバッグからスマホを取り出して母のスマホにかけた。ちなみに、あたしの実家には固定電話はないのだけれど、両親もそれぞれスマホを持っているので連絡を取るのには困らないのだ。 奏はあたしの側を離れずにじっとしている。あまり手がかからない子なので、こういう時すごく助かっている。「――もしもし、お母さん? 今仕事帰
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-15
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幸せへの第一歩 ②
「――それで、莉子。大事な話って何なの?」 夕食にみんなでオムライスとサラダを食べ終え、洗い物などの後片付けを母と二人で終えた後、あたしは母に訊ねられた。ここには父もいるので、話すには絶好のタイミングだと思う。 奏には「ママの見えるところで大人しく遊んでて」と言ってあって、彼女はお気に入りのぬいぐるみで遊んでいる。「あのね、あたし、転職しようと思うの。正社員で働きたくて」「正社員? だってお前、そしたら奏のお迎えは――」「分かってるよ、お父さんの言いたいこと。でもね、入りたい会社はもう決まってて。そこはフレックスタイム制で出勤時間も帰る時間も自分で選べるから、今までどおり保育園のお迎えにも行けるの。だから心配しないで」 あたしは父を安心させたくて、まずそう言った。両親がいちばん心配しているのは、あたしが正社員として働くようになることでわが子である奏を蔑ろにするんじゃないかということだと思ったから。「そう。それならいいんだけど……。でも、どうして急に転職、それも正社員で働きたいなんて。……そういえば、今日お迎えが遅れたこととも関係があるって言ってたわね」「うん。だから、それも話さないとね。――お父さん、お母さん、高倉瑛司くんって憶えてる? あたしの幼なじみで、中三の夏に引っ越していった男の子」「憶えてるわよ。確か莉子、その子のことが好きで、転校を知ったときには大泣きしてたわよね」「……母さん、その話は聞かせないでくれ。父親にとっては耳に毒だ」 父が母の横でしかめっ面になった。やっぱり父親っていうのは、娘の恋バナを聞きたくないものらしい。「……で、その初恋の相手がどうかしたのか?」「実はね、今日、瑛司くんと十年ぶりに再会したの。彼、あたしが働いてるファミレスにお昼を食べに来てて。で、パートが終わってから待ち合わせしてカフェで会って話した。瑛司くんね、今年商十億の会社の社長さんになってて、『ウチの会社で一緒に働かないか』って言ってくれて。それも正社員として」「あの瑛司くんが……社長さん? そうなの……。もしかして、自分で会社をやってるの?」「うん。大学在学中に起業したって言ってた。ホームページも見たけど、けっこうしっかりした会社みたいだよ」 あたしはスマホカバーに大事に挟んであった彼の名刺を取り出して、二人が見えるようにテー
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-16
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幸せへの第一歩 ③
『――もしもし、莉子?』 奏をお風呂に入れる前に瑛司くんに電話すると、彼はすぐに出てくれた。彼はもう家に帰っているんだろうか? それともまだ会社に残っているのかな?「うん。あの……、あの話の返事をしたくて連絡したんだけど。今大丈夫?」『ああ、大丈夫。まだ会社にいるから。……あ、莉子の連絡先、さっそく登録しといたよ。で、もう決まった?』「あたしも登録したよ、瑛司くんの連絡先。――でね、返事なんだけど。あたし、瑛司くんの会社で働くことに決めた。両親も奏も賛成してくれたから」『そっかそっか。よかった。正直、断られるの覚悟してたから』 あたしの返事を聞いた彼はすごく嬉しそうだ。多分、求人を出しても応募者が来ないから、というのもあるだろうけれど。理由はきっとそれだけじゃない。あたしと一緒に働けるのが嬉しいんだと思う。「ねえ、いつから行ったらいいの? 一応あたし、パートの退職手続きとかもあるから明日からってわけにはいかないけど」『一応、形だけでも面接して、その時に給料の額とか待遇について説明するから。それから入社日を決めるってことでどうかな? ――面接、明日は都合どう?』「明日はシフト入ってるから……、ごめん」『そっか。じゃあ……明後日の午後二時はどうかな?』 彼は手帳で自分の予定を確認しながら電話で話しているらしい。社長ともなれば、来客があったり約束が入っていたり、何かと忙しいのだろう。「明後日なら大丈夫。パートお休みだから。それじゃ、面接は明後日の午後二時ね。会社の場所は、名刺に載ってる住所をナビアプリで調べれば分かるよ。で、何持っていけばいい? 履歴書とか必要?」『一応、持ってきてもらった方がいいかな。写真付きで。……っていってもウチの会社は履歴書の内容って重視してないし、今回は俺がスカウトして来てもらうようなもんだから。写真も社員証用のヤツは面接の後にウチで撮るし。あとは……筆記用具と、自分用のパソコンってある?』「うん、持ってるよ」 あたしは仕事でパソコンを使うことはないけれど、保育園の書類を書いたりネット予約などでは使っている。『それじゃ、それも重いだろうけど持ってきて。莉子のパソコンスキルがどのくらいなのか見せてもらいたいんだ。とりあえず、ワードとエクセルくらいは使える?』「まあ、基本的なことは何とかね。大学でも習
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-19
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ドキドキの面接 ①
 ――翌々日、あたしは奏を保育園に預けてから駅前まで証明写真を撮りに行った。履歴書を書くなんて二年ぶりだ。 「……えっ? 今、証明写真撮るのって千円もかかるの? 高ーい……」  撮影機の側面に書かれた価格を見て、あたしは愕然となる。二年前は確か七百円くらいじゃなかったっけ? いつの間にこんな値上がりしたんだろう? 「千円の出費は痛いけど、しょうがない。これも瑛司くんの会社に入るためなんだから」  カーテンを開けて中に入ると千円札を投入口に突っ込み、撮影に臨む。そのために今日は、わざわざ清潔感のある白い襟付きのシャツにカーディガンという格好で来たのだ。ボトムスは普段穿いているデニムパンツだけれど。 口角を上げ、愛想よく写るように。――ネットで調べてきた、面接官の心証をよくする証明写真の撮り方を実践する。面接官は十年間会っていなかった初恋の人なので、余計にあたしのことをよりよく見せたいという気持ちは強い。 「……うん、なかなかいいんじゃない?」  撮影から一分後に出来上がった写真は、元の写真写りの良さも相まってなかなか愛想よく、美人に撮れているのであたしは満足した。 パンツスーツは大学時代に買ったものが家にある。奏を出産しても体型はあまり変わっていないので、昨夜着てみたらまだ十分着られた。  家に帰ってから履歴書を書き(用紙は二年前に買った分がまだ残っていたので、それを使った)、撮ってきた証明写真を一枚切り取って貼り付ける。 志望動機はどう書こうか悩んだけれど、「将来娘と二人だけで生活していくために貯金をしていて、パートの収入ではそれが厳しかった。正社員としての御社の収入と、フレックスタイム制という点が保育園に娘を迎えに行かなければならない私には助かるので、御社で働く
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-20
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ドキドキの面接 ②
「――お待たせ、莉子。それじゃ、今から面接を始めます。本日面接官を務める、社長の高倉です。よろしく」「はい、よろしくお願いします」 形式的なものとはいえ、一応は採用面接だし人目もあるので(誰がいつ覗きに来るか分からないし)、あたしたちはそれらしい挨拶から始めることにした。そして、何だか照れ臭くなって二人で笑った。「……やっぱやめた。もうここからは普通に話そうな」「うん、そうだね」「じゃあまず、履歴書見せてもらおうかな」「はーい。これが履歴書ね」 瑛司くんは白い封筒から履歴書の用紙を取り出して、広げて目を通し始めた。 履歴書の内容はあまり重視しないと聞いたので、必要最低限のところしか記入していない。最終学歴は大学中退、職歴は今働いているファミレスのパートのみ。資格は特になし。それでもパソコンの基本的なスキルはある程度習得済み。それが今のあたしだ。「……うん、なるほど。大学を辞めてからパートが決まるまでに空白の期間があるのは、奏ちゃんを保育園に預けられるようになるまで待ってた、ってことだよな?」「うん。そうでなくても、子供を産んだ後一年くらいは体がボロボロで働ける状態じゃなかったから」「分かった。そうだよな……、母親って大変だよな」「うん……、大変なの。……あのね、志望動機は一応、頑張って考えて書いたの。一昨日カフェで話したことそのままだけど。奏と二人で生きていくのに貯金をもっと増やしたいからパートだけじゃ厳しくて、それでも奏との時間も大切にしたいからフルタイムはムリで。……こんなの、あたしのワガママだって分かってるよ。他の会社だったらきっと門前払い食らうところだったと思う。でも、この会社なら正社員だけどフレックスタイム制だからそれが両方叶う。それがあたしの志望動機です」「なるほど。いいんじゃないかな、その動機で。他の会社だったら確かに落とされそうだけど、ウチの会社ならそれで十分。――それじゃ、給料とかフレックスタイム制についてとか、あと福利厚生の面について説明するよ。まずはこの資料に目を通して。その後、俺から補足説明するから」「うん」 あたしは手渡されたプリント用紙数枚分の資料に目を通していく。あたしは正社員として働いた経験も、大学時代に就職活動をした経験もないので、会社勤めってこういうことなんだなと思うと何だか新鮮な気持ちだった。就活
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-21
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ドキドキの面接 ③
「あとは福利厚生についてだけど……。通勤にかかる交通費は全額会社負担。有給休暇ももちろん取得できるし、他にも色々と休暇が申請できる。慶弔休暇――ハネムーン休暇とか、身内に不幸があった時の忌引きとかだったり、女性なら生理休暇とか産休・育休ももちろん取れる。それと年に二回、七月と十二月にボーナスも出る。あと、社内のイベントもいくつかあって……、これは強制参加じゃない。それでもって家族連れ、子連れでも参加OK」「えっ、会社のイベントなのに子供連れてきてもいいの?」「ああ、もちろん。だから莉子も、遠慮しないで奏ちゃんを連れておいで。一緒に楽しもう」「やったぁ! 奏もきっと喜ぶと思う」 ここまでひととおり会社の説明を受けたけれど、こんなにすばらしい会社、他にないんじゃないだろうか。ここで働けるあたしは幸せ者だ。「……と、ここまで駆け足で説明したけど、他に何か質問ある?」「えっと、入社日なんだけど。どこまで調整してもらえるかな? パートの退職手続きのこともあるから、明日からってわけにはいかなくて」「そうだなぁ……。とりあえず、退職の手続きやら諸々の猶予を考慮して……。今日が九月の十四日だから、十月一日からってことで調整しようか。パート先の雇用保険は?」「なかったと思う。だから、退職の手続きは退職願を出して、制服とかロッカーのカギとかの備品を返したら終わりなの」「分かった。それなら、半月もかからないか。というわけで、ここからは簡単なテストをしてもらうのと、パソコンのスキルを見せてもらいます。筆記用具とパソコン、持ってきてるよな?」「うん。……あ、ちょっと待って。瑛司くん、これは仕事とは関係ない質問なんだけど……」「ん? どうぞ」「一昨日言ってたことは、あたしへのプロポーズ……ってことでいいの? 奏の父親になりたいって」 今日彼に会ったら、どうしても訊きたかった。彼に、あたしとの結婚の意思があるのかを。自分の子ではない子供の父親になるなんて、軽い気持ちで言えるようなことじゃないから。「もちろん、俺はそのつもりで言ったんだよ。本気だから。莉子と結婚して、奏ちゃんと養子縁組して親子になるって。だから俺のこと信じてほしい」「うん、分かった」「それじゃ、テスト始めるから準備して」「は
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-22
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